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太古の人類はどう鍛えた?器具なき身体文化から腕立て伏せの壮大な源流を追う

2024年4月24日
読了時間: 16分

更新日:3 時間前

太古の人類はどう鍛えた?器具なき身体文化から腕立て伏せの壮大な源流を追う

もし数万年前の人間に、

「今日は何のトレーニングをしましたか?」

と尋ねても、おそらく現在の私たちが想像する答えは返ってこないでしょう。

ジムもない。

バーベルもない。

トレーニングメニューもない。


筋肥大、最大筋力、筋持久力といった運動科学の言葉もありません。

しかし、人間は身体を使わずに生きることができませんでした。

歩く。

走る。

しゃがむ。

登る。

地面へ手をつく。

身体を起こす。

獲物や食料を運ぶ。

物を押す。

物を引く。

投げる。

危険から逃げる。


こうした身体活動は、現代人にとっての「運動」ではなく、生存そのものだったはずです。

では、その膨大な身体活動の中に、現代の腕立て伏せにつながる動きは存在していたのでしょうか。


これは簡単に「YES」「NO」で終わらせるには、あまりにも面白い問いです。

歴史資料が証明していること。

人間の身体構造から考えられること。

後世に残った身体文化から推論できること。

この三つを分けながら、人類と腕立て伏せの原点まで遡ってみます。


太古の人類は「筋トレ」をしていたのか

現在のトレーニングには、明確な目的があります。

筋力を高めたい。

筋肉を大きくしたい。

持久力を向上させたい。

速く動けるようになりたい。

その目的に合わせて、負荷、回数、運動時間、休息、頻度などを調整します。


一方、先史時代の人間に現在と同じ「運動のための運動」がどの程度存在したのかは分かっていません。

近年の進化人類学では、祖先的な環境における身体活動を、現代のような任意のexerciseではなく、食料獲得や移動など生存と直接結びついたphysical activityとして捉える考え方があります。


2026年にEvolutionary Anthropologyで発表されたレビューでも、祖先的な身体活動は生存のために必要だった活動と、現代人が健康や競技目的で自主的に行うexerciseを区別して論じています。


つまり、太古の人間は、

身体を鍛えるために生きていたというより、生きるために身体を使い続けていた。

この違いは非常に重要です。

現代人なら、

「今日は脚の日」

「明日は胸の日」

と運動を切り分けられます。


自然環境の中で生活していた人間は、歩いた直後に登り、物を持ち、しゃがみ、再び移動する。

運動は身体部位ごとに分割されたメニューではなく、生活の中で連続していたと考える方が自然です。


世界各地の狩猟採集社会について900以上の民族誌資料を検討した近年の研究でも、歩行や走行だけでなく、登る、泳ぐ、潜るなど多様な移動様式が確認されています。

人間の身体は最初から「一種類の運動だけをする機械」ではなかった。

ここに、自重トレーニングを考える最初のヒントがあります。


太古の人間は「自重だけ」で鍛えていたわけではない

太古の人間が現代のトレーニングマシンを持っていなかったことは当然ですが、

自分の体重だけしか負荷に使わなかった

と考える必要もありません。

石。

木。

道具。

獲物。

食料。

水。

生活物資。

人間はさまざまな物を持ち、運び、押し、引いたでしょう。

身体活動を現代のトレーニング用語へ置き換えるなら、

太古・古代の身体活動

現代トレーニングで近い要素

歩く・走る

有酸素運動・ランニング

木や岩を登る

クライミング・懸垂系

地面から起きる・身体を支える

自重トレーニング

石や荷物を持つ・運ぶ

レジスタンストレーニング・キャリー

跳ぶ・障害物を越える

プライオメトリクス・パルクール

押す・引く

プッシュ/プル動作

狩猟や戦闘

全身運動・敏捷性・反応能力

つまり、人類の原始的な身体活動を現代の言葉で分類するなら、

BODYWEIGHT+NATURAL LOAD+LOCOMOTION

です。

自分の身体。

自然物による外部負荷。

移動能力。

この三つが混ざった身体活動だったと考えると、かなり実像に近づきます。


腕立て伏せより先に「地面を押す人間」がいた

では腕立て伏せはどうでしょう。

現在の腕立て伏せは非常に明確な運動です。

両手を地面へ置く。

足を支持点にする。

身体を下げる。

腕で地面を押す。

身体を持ち上げる。

これを反復する。


しかし「最初の一回」を記録した人はいません。

ここから先は、歴史的事実と合理的推論を分けて考える必要があります。

史料として確認できないからといって、

人類が地面を押して身体を起こす動きを近代まで一度も行わなかった

と考えるのも不自然です。


転倒した身体を起こす。

低い姿勢から手を使って立ち上がる。

四肢で身体を支える。

障害物へ手をつき身体を押し上げる。

這った姿勢から上半身を持ち上げる。

こうした動作には、腕立て伏せを構成する「支持」と「押す」という機能が含まれています。


だから私は、腕立て伏せの歴史を、

ある一人が完成品を発明した歴史

として見るより、

人間が太古から行ってきた「押す・支える」という身体動作が、長い時間をかけて運動種目へ抽出されていった歴史

として見る方がはるかに魅力的だと考えています。


これなら史実を捏造する必要もありません。

そして、まだ発見されていない史料が存在する可能性も残せます。


1819年|現代型プッシュアップに驚くほど近い記録が存在する

ここで腕立て伏せ史に非常に面白い資料が登場します。

テキサス大学オースティンのH.J. Lutcher Stark Centerで、身体文化史研究者Jan Toddがプッシュアップの起源を調査した記録があります。

その調査で見つかったのが、スイス出身の体育家Phokion Heinrich Cliasが1819年に著した体操書です。


そこには、両手と足先で身体を支持しながら地面へ身体を近づける、現代の腕立て伏せに非常に近い運動が記述されていました。

しかも、その名前がすごい。

「Kissing the Ground in Equilibrium on the Arms and the Points of the Feet」


直訳するなら、

「腕と足先で均衡を保ちながら地面にキスをする」

です。

現代の「push-up」という無機質な名称より、はるかにロマンがあります。

さらにToddの調査では、1894年のEugen Sandowの著作にも現在の腕立て伏せに近い運動写真が残っており、そこでは「Chest Expanding Exercise」として紹介されています。


つまり、少なくとも19世紀には、現在のプッシュアップにかなり近い運動が明確に記録されていたことになります。

ここからが面白いところです。

1819年に突然、人類が初めてこの動きを思いついたのでしょうか。

Todd自身も、最初の腕立て伏せを誰が行ったのかを特定することはできないとしています。


私はそこに歴史の空白を感じます。

1819年は「腕立て伏せが誕生した年」ではなく、「現時点で確認できる記録の一地点」なのかもしれない。

史料が見つかっていない時代に運動そのものが存在しなかったとは限りません。

ここは、腕立て伏せ史にまだ残された巨大な未解明領域です。


古代ギリシャ・インドのDand・1819年の記録から腕立て伏せの源流をたどる歴史バナー

古代ギリシャ|身体能力を意図的に鍛える文化が発達する

太古の「生きるための身体活動」から一歩進むと、古代文明では身体能力そのものを意図的に高める文化がより明確になります。

特に古代ギリシャでは、

走る。

跳ぶ。

投げる。

レスリングを行う。

重量物を使う。

競技へ備える。

といったトレーニングが存在していました。


古代ギリシャ・ローマの文献を検討した学術レビューでは、競技者のランニング、レスリング、重量を用いた運動など、複数の身体訓練が記録されています。

ただし「すべてのギリシャ兵が体系的にトレーニングしていた」と単純化することもできません。


Oxford Classical Dictionaryによれば、紀元前4世紀以前のギリシャ軍では、スパルタなどを除いて組織的軍事訓練の証拠は限定的です。

だからこそ面白い。

古代ギリシャには確かに高度な身体文化があった。


一方で、現在の腕立て伏せそのものを古代ギリシャ兵が反復していたと証明する決定的資料は、まだ見つかっていない。

ならば問いは残ります。

レスリング。

床上運動。

身体支持。

軍事訓練。

競技鍛錬。

これほど身体を使う文化の中で、「伏せた身体を腕で押し上げる」という極めて単純な動きが、一度も利用されなかったのだろうか。


断定はできません。

しかし、可能性を考える余地は十分あります。

それこそが歴史を追う面白さです。


Calisthenicsは古代ギリシャ語由来だが、言葉自体は近代に登場した

自重トレーニング史ではcalisthenicsという言葉も頻繁に登場します。

語源はギリシャ語系の、

kallos=美

sthenos=力

に由来します。


ただし、現在使われているcalisthenicsという英語の語は古代ギリシャでそのまま使われていた名称ではなく、英語で確認されるのは19世紀です。

Etymonlineではcalisthenicsを1842年、形容詞calisthenicを1837年まで遡って確認しています。


したがって、

古代ギリシャの身体文化=現代のcalisthenicsそのもの

と考えるより、

古代から続く身体鍛錬思想が、近代の体育・体操文化の中で新しい名称と体系を与えられていった、

と見る方が自然です。


現代の自重トレーニングについては、

でも詳しく掘り下げています。


インドのDand|腕立て伏せ史で外せない巨大な系譜

腕立て伏せのルーツを追うと、もう一つ巨大な身体文化へ行き着きます。

インドのレスリングです。

そこで重要になる運動がDand。

日本では「ヒンズープッシュアップ」と呼ばれることが多い運動に近く、腰を高くした姿勢から身体を前方へ潜らせるように下降し、胸を前へ送りながら身体を押し上げます。


現代のストリクトなプッシュアップとは動作軌道がかなり違います。

しかし、

手と足で身体を支持する。

腕で身体を押す。

全身を連動させる。

反復する。

という重要な共通点があります。


インドのレスリング文化を長年研究した人類学者Joseph S. Alterは、著書『The Wrestler's Body』の中で、DandとBethakをレスラーの鍛錬体系の中核として詳細に記録しています。


AlterはDandをjackknifing push-upと説明し、DandとBethakを組み合わせた鍛錬が全身運動として位置づけられていることを紹介しています。


さらにAlterは、現在の北インドのレスリング文化について、ペルシャ系のレスリング文化とインド固有の伝統の融合であり、そのインド側の系譜は少なくとも11世紀まで遡るとしています。


ここは非常に重要です。

「Dandは紀元前何千年から現在と同じ形で行われていた」

とまで断定する必要はありません。


それでも、

インドには近代以前から、自分の身体を腕で支持し、反復して押し上げる高度な身体鍛錬文化が存在していた。

これは十分に強い歴史です。


では、このDand/ヒンズープッシュアップから腕立て伏せ競技までをさらに詳しく扱っています。


腕立て伏せの歴史は「一本の線」ではない

ここまでを整理すると、腕立て伏せの歴史を一人の発明者だけで説明することが難しい理由が見えてきます。

時代・文化

確認できるもの

腕立て伏せとの接点

太古・先史時代

生存に必要な多様な身体活動

押す・支える・這う・登る

古代ギリシャ

競技・レスリング・走跳投・身体鍛錬

意図的な身体能力開発

インド身体文化

Dand・Bethak・レスリング鍛錬

腕支持型の反復運動

1819年

Cliasによる現代型に近い動作記録

明確なプッシュアップ型

1894年

Sandowの運動写真

現代型へさらに接近

近現代

軍事・体育・フィットネス・競技

標準化・測定・記録化

つまり腕立て伏せは、

太古の基本動作 → 身体鍛錬 → 体系化 → 名称化 → 標準化 → 競技化

という長い進化の中に置くと分かりやすくなります。

腕立て伏せのさらに大きな歴史軸は、

で、PAST・PRESENT・LIMIT・FUTUREの4つの時間軸からまとめています。


「生存する身体」は現代のファンクショナルトレーニングへつながる

太古の人類から現代のトレーニングへ持ち帰れる最大のヒントは、

身体を部位だけで考えないこと

かもしれません。

自然環境では、大胸筋だけを使う場面はほぼありません。

何かを押すときにも、

足で地面を捉える。

骨盤を安定させる。

体幹を固定する。

肩甲帯をコントロールする。

腕へ力を伝える。

という全身の連鎖が起こります。


腕立て伏せも同じです。

胸。

肩。

上腕三頭筋。

それだけを動かしているわけではありません。

手から足まで身体全体を支持し、重力の中で姿勢を保ちながら、身体を上下させます。

私が腕立て伏せを長年追究してきて強く感じるのも、ここです。


本当に難しいのは、腕だけで押すことではない。自分の身体全部を一つの物体として操ること。

だから腕立て伏せは、極めるほど「胸の筋トレ」から離れ、人間の身体操作そのものへ近づいていきます。


では、腕立て伏せを全身のキネティックチェーンとして見る考え方を詳しく解説しています。


太古の運動能力は筋肉番付・最強スポーツ男子・SASUKEにも残っている

ここで歴史を一気に現代へ飛ばしてみます。

走る。

跳ぶ。

登る。

身体を支える。

障害物を越える。

限界まで反復する。


これらは太古の人類が生存の中で必要としていた身体能力と重なります。

そして現代では、それが競技ルールを与えられ、エンターテインメントになりました。

TBS『筋肉番付』のクイックマッスル。

『最強スポーツ男子頂上決戦』のハードジャンパー。

『SASUKE』の障害物攻略や綱登り。


もちろん、太古の生活とテレビ競技を歴史的に直接結びつける話ではありません。

しかし運動の本質を分解すると、

押す・跳ぶ・登る・支える・耐える

という、人間が昔から使ってきた極めて原始的な能力を、現代では数字とルールによって競技化しているとも見ることができます。


私はTBS『筋肉番付』の三色筋肉やクイックマッスルをはじめ、長年「身体能力を競技として見せる」世界に関わってきました。


その視点から見ると、こうした筋肉競技には不思議な魅力があります。

器具が高度だから面白いのではない。

人間そのものが動き、人間そのものが限界へ挑むから面白い。

数万年前と令和では世界が違います。

それでも、人間が「どこまで動けるのか」を見たくなる本能は、それほど変わっていないのかもしれません。


現代でも、自分の身体そのものが最強のトレーニングツールになる

「時間がないから運動できない」

という人でも、30秒なら身体を動かせます。

PUSH-UP THE HEROでは、短時間で身体操作へ集中する独自エクササイズとしてPUSH-UP HERO MOVEを展開しています。


さらに家庭で手軽に深さの目安を作る方法として、トイレットロールを使った30秒プッシュアップチャレンジもあります。

日本の一般的なトイレットロールの高さを利用して胸の下降位置を可視化し、短時間で腕立て伏せへ挑戦するアイデアです。


最先端の科学だけが進化ではありません。

身近な物。

自分の身体。

短い時間。

それだけでも、運動は設計できます。

ある意味でこれは、太古の人間が自然環境を利用して身体を使った発想とよく似ています。


腕立て伏せは「胸の筋トレ」から人間の身体能力へ戻っていく

現代のフィットネスでは、筋肉を部位で分ける考え方が非常に便利です。

大胸筋。

三角筋。

上腕三頭筋。

腹筋。

背筋。

もちろん、トレーニングを理解するためには重要です。


しかし腕立て伏せを極めると、その分類だけでは足りなくなります。

身体を一直線に保つ。

重力へ抵抗する。

手から床へ力を伝える。

下降速度を制御する。

最下点で切り返す。

完全に押し切る。

何十回、何百回と再現する。


これは「胸」だけの問題ではありません。

身体全体をどこまで自分の意思で操れるか。

そこへ戻っていきます。


太古の人間が身体を使った理由は、生きるため。

現代人が腕立て伏せをする理由は、健康、筋力、スポーツ、競技、パフォーマンスなどさまざまです。

目的は違っても、使っているのは同じ人間の身体です。


太古の押す・支える・登る身体能力から現代の腕立て伏せへつながる自重トレーニングの進化

太古の人間のDNAを呼び起こせ

この言葉を、文字どおりの遺伝学として受け取る必要はありません。

PUSH-UP THE HEROが伝えたいのはもっとシンプルです。

人間は本来、

歩ける。

走れる。

登れる。

押せる。

支えられる。

跳べる。

自分の身体を移動させられる。

その能力を持っています。


便利な時代になるほど、身体を使わなくても生活できるようになります。

しかし、身体能力まで不要になったわけではありません。

2026年の進化人類学のレビューが指摘するように、現代では生存と身体活動が切り離され、「動かなくても生きられる」環境が成立しました。


だから今度は、人間が自分の意思で身体を動かす必要があります。

そこで腕立て伏せです。

床があればできる。

身体そのものが負荷になる。

初心者から世界レベルまで難易度を変えられる。

筋力にもなる。

持久力にもなる。

スピード競技にもなる。

身体操作の練習にもなる。


何千万円の設備がなくても、人間の限界へ近づくことができます。

最強の自重トレーニング腕立て伏せで、太古の人間のDNAを呼び起こせ。

これは、昔へ戻れという意味ではありません。

人間がもともと持っている身体能力を、現代科学と現代技術で未来へ進化させる。

その意味です。


腕立て伏せの最初の一回は、まだ歴史の闇の中にある

誰が世界で最初に腕立て伏せをしたのか。

古代ギリシャの競技者か。

インドのレスラーか。

兵士か。

名も残らない誰かが、もっと古い時代に地面を押したのか。


今のところ答えはありません。

しかし、それでいいとも思います。

1819年には「地面にキスをする」という美しい名前で、現在の腕立て伏せに近い運動が記録されていました。

その前には、インドの身体文化がある。

さらにその前には、古代の競技と鍛錬がある。

そしてもっと遠い過去には、名前さえ付いていない人間の基本動作がある。

その空白をすべて「分からない」で閉じる必要はありません。


史実は史実として守る。

推論は推論として楽しむ。

新しい史料が発見されたら、また歴史を書き換える。

それが腕立て伏せのロマンです。


太古から現在まで、人間は身体を使い続けてきました。

そして腕立て伏せもまた、

完成した過去の運動ではなく、今も進化の途中にある運動です。


その先にどんなフォームが生まれるのか。

どんな競技が生まれるのか。

人間は何回までできるのか。

どこまで速くなれるのか。

そして100年後、腕立て伏せは何になっているのか。

歴史の続きを作るのは、これから腕立て伏せをする私たちです。

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